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  • ATELIER HAYATO NAKAZAWA

なれのはて 『ドン底で、笑う』

『なれのはて』っていうのは別に私のことではなくて映画のタイトルです。

少し前に『ドライブマイカー』という映画がアカデミーショー国際長編映画賞を受賞しましたが、同時期に上映されていた映画です。知名度はドライブマイカーの比ではないでしょうけれど。

同時期に公開されていた日本の映画ということで、これら二つの映画を比較してみていました。

一方は華々しく海外でも上映され最終的にはアカデミー賞をとっていて、もう一方はミニシアター系の映画館でリバイバル上映などを行いながら上映されていた、いわゆるアングラ系の映画です。映画はどちらもとても面白かったです。特に『なれのはて』はタイトルだけで観に行きたくなりました。

『なれのはて』はフィリピンに渡った不法滞在の日本人を追ったドキュメンタリー映画で、出演者の方々は最後は野垂れ死に近い形で亡くなっていたり、亡くなったあともどこに埋葬されたのか(葬儀業者が引き取ったのに)よくわからず業者から『どっかいっちゃった』みたいな感じで扱われたりして、老後二千万円問題と言ってみんなが備えるような環境とは全然違いました。

日本も経済成長は長年下降気味と言われて久しいですが、それでも未だ先進国の一カ国として世界に名だたるG7にも加盟するような国ではあります。 現在開催されている東京の美術関係の展覧会を見ていても、世界トップクラスの裕福な国であることは間違いありません。ダミアンハースト、ゲルハルトリヒター、メトロポリタン美術館展など世界屈指の作家の展覧会が定期的に行われる国が世界200数十カ国の中にどれくらいあるでしょう?半数以上はそんな展覧会どころか有名な外国人作家の展覧会を誘致することだって難しいと思います。

ただ、フィリピンほどではないにしろ日本でも格差社会についての議論は存在します。テレビのワイドショーなどで時折貧困層の人が闇商売に手を染めるのを取材した番組を見かけるのですが、いつもそう言った番組を見ていると気になることがあります。

それは、たいていそういった番組の最後は、

『彼女はそう言ってまた夜の闇の中へと消えていった‥』

みたいなナレーションで番組が終わるということです。

それを聞く度に思うのは…

『いや、消えていったとかじゃなくて取材とかしたんだからなんとかしろよ!!!よくないことしてんのわかってんだろ!?というかその後どうなったんだよ??』

みたいな後味の悪さで、さらにスタジオに戻ったカメラがニュースキャスターを写してニコニコしたアナウンサーが『ハイ、お天気です』とか『とれたてニッポン』とかいっているのを見ると『お天気なのはおまえの頭の中だろ!!』みたいな気分になり、『お天気の前に闇に消えた人の心の天候をもっと気にしろよ!?お天気絶対よくないぞ!!』みたいな思いと共に1秒前の出来事と現実のギャップに戸惑います。

我が国はなれのはてを『なれのはて』と言ってスクリーンから眺められる距離にいる国なのです。こんなことを言ったら現地の人から『馬鹿野郎!!こっちは毎日ドキュメンタリーの生放送中だよ!』と怒られそうですが。

映画『なれのはて』を観た日はたまたま映画上映後に監督のトークショーと質疑応答がある日程だったらしく、上映後トークショーを見学させていただきました。 テレビのドキュメンタリーなどを見ているといつも撮影のあと出演者がどうなるかなど気になっていたので、監督にそのようなことを質問してみました。

以下質疑応答の内容になります。

ーどうやってフィリピンの、しかもかなりグレーゾーンにいる日本人の取材対象者を見つけるのですか?

A. 自力で現地の人に聞きまくってそう言うグレーな人は見つけます。とにかくツテは何もなく現地で聞き込みが基本です。 ー出演者に給与は支払うのですか?

A.特に出演料などは払ったりはしないのですが、お話を聞いたらその時にかかる食事代やお酒代は払います。あとは帰国する際に 残った小銭などを渡したりします。結構それでも喜んでもらえます。

ー撮影が終わった後、出演者の方との交流などはあるのですか?(ワイドショーのエンディングが気になるので) A. 連絡が取れる人はSNSでやりとりをしたり、再度フィリピンに行った際には会ったりします。しかし何名かは撮影中や直後に亡くなっていたり、失踪したり、音信不通になる人など様々です。

ーほぼ自主制作映画だと聞いたのですが、お金は上映などで回収できるのですか? A. かなり厳しいです。単舘上映なので一日何回もいろんなところで上映されない映画はかなり制作費の回収は大変だと思います。

ー危険な目にあったりはしなかったのですか?

A. スリとかはいるが、基本的にこちらがお金を持っていないとわかると結構大丈夫です。むしろそういった街を頻繁に訪れていると顔を覚えられて妙な連帯感を持たれます。お金がある人は騙す対象になりやすいが、ないと思われると結構フレンドリーだったりします。ただ現地には数千円で人を殺すような人もいるので常に気をつけてはいました。

ー生計はどうやって立てているのですか?

A. CMとかの撮影などで賄います。まず映画監督だけで全ての生計が成り立つような人は日本でも10人もいないのではないかと思います。 以上。

トークショーが終わった後さらにロビーにいた監督と話をする機会がありました。その映画監督と話していて思ったのは、西荻窪も似た感じだなということでした。

フィリピンでも少数の富裕層は自家用ジェットで世界中を飛び回り、宮殿のような家で暮らしている人もいるらしいです。ただ半数以上の人はスラム出身でバラックのようなところで生活している人が大多数のようです。

これは、なんとなく西荻窪も似たような雰囲気があって、おしゃれで綺麗なお店や個性的なお店のすぐ隣に戦後バラックや闇市の名残のようなお店が駅周辺には残っています。再開発で下北沢などはこういったお店が完全になくなってしまいましたが、中央線沿線はいまだにそのようなお店があります。

そしてそこにたむろする人はなんかみんないい意味で人生に過度な期待を持たず、ゆるく楽しくマイペースに生きている感じがします。 例えば自由ヶ丘などに行くと、ベビーカーにわんちゃんを乗せたようなおしゃれマダムがいっぱいいるのですが、西荻窪では膝の上にわんちゃんを乗せた人がそのまま犬を抱っこしてパチンコ屋に入っていったりします。

こう言った映画を見て、話を聞いて思ったのはやはり芸事はどの世界も本当に大変だということでした。華々しく『監督』や『先生』などと呼ばれていても実情はかなりシビアです。 昔自分より4-5歳上の先輩と話していた時にその先輩から『俺たちみたいな年収200万円に到底届かないような人間は‥』といわれたことがあるのですが、正直そんなに年収が低いのかとビビりました。その時はとりあえず「そうですね、僕らの年収も下手すると学校のテストの点数みたいな金額になりそうなので、年収赤点にならないように気をつけたいですね!」などと適当なことを言ってその場を切り抜けましたが、色んな意味で苦笑いするしかありませんでした。ちなみにその先輩よりさらに10歳以上年上の先輩は川から水を引いているという人がいました。

ダイバーシティ(多様性)が叫ばれる昨今ですが、これも多様性の一種なのか‥?と思いながら、夜の闇へと消えていったかつての先輩の姿を不意に思い出しました。

アナウンサー:『芸事は好きなことが出来るという反面、そう言ったリスクと常に隣り合わせだということを忘れないようにしなければいけませんね。みなさんも、人生と借金は計画的に行いましょう!

映画監督の粂田さん、絵画教室経営者の中澤さん、今日はありがとうございました。お二人とも今後の人生をお気をつけてお過ごしください。

(笑顔で)はい、お天気です!』

次回は『フェルナンド・ボテロをご存知ですか?』になります!

ご期待ください。

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