• ATELIER HAYATO NAKAZAWA

年末のご挨拶ー横浜より、海をみつめて

心おとろえた時は海へいこう!

心さかんな時も海へ行こう!

忘却と自由を、解放と夢とを願うものは、海へ行こう。

この世は人を疲れされる。自由な心を縛り、閉じ込め、悲しませる。

虚偽と俗悪、因習と無恥!醜い人間的刻印は宿命のように、

我々を追い、我々に追いつき、そして我々を待ち受ける。

…だが、海の涯しないひろがりは、一切の刻印を否定し、心に自由を与え、無辺の彼方に解き放つ!


矢内原伊作 『海について』より。


毎年年末になると海を見に行きます。訪れる場所は様々ですが特に日本海側などは寒空の下閑散としていて最高です。訪れる回数は年末にかかわらず横浜の海が一番多いと思います。学生時代はあまりお金がなくて海外にも行けなかったので、軽い外国気分に浸れる横浜は月1、2ペースでよく通っていました。


なぜ毎年大晦日に海を見るかというと自分への自戒を込めてということが一番大きいと思います。で、自戒とは何かを説明します。

作家として生きていくというのは思いの外結構大変です。仮に作家になりたいという人がいても(絵で食べていきたいという相談をよく受けるのですが)私に悪徳セールスマンのような邪心がない限りその生き方をそんなにお勧めはしません。もし親御さんが子供を美術作家に育てたいなんて言っていたら、『民間のロケットで宇宙に行けるほどの資産があるなら別ですが、そうじゃないならそのロケットの設計とかするお仕事の方が確実に将来的には安泰ですよ!』と伝えます。


作家という生き方には色々なイメージがあると思いますが、作品をつくりそれのみで生計を立ててその生活を何年も継続していくというのはかなり大変です。

もちろん世の中がクリスマス、忘年会、お正月、など楽しいイベントがあるときも大半の作家はそんなことすら頭に浮かばないくらい必死になって制作を続けています。作家というのは世の中がそういう状況であっても真逆のことをストイックに続けていく覚悟が求めらる職業です。そういうことを忘れないために、毎年年末になると賑やかな人通りを抜けて真っ暗な海を見に行きます。そして今年もなんとか一年の終わりを迎えられたと感謝と安堵の想いを持ちながら海を眺めます。


横浜の街は年末ということもありどこに行っても人、人、人で浮かれに浮かれているのですが、

そういった喧騒を切り抜けて人気のない真っ暗な海に向かいます。こんなに街は繁盛していて楽しそうなムードに溢れていても来年も自分が向かう道はまたこの海みたいにずーっと深くて重いところなんだろうなぁ、とか思いながら海を眺めに向かいます。


ただし、ただ海だけ見て帰ってくると本当に重い気分になるので海を見ながらだいたいビールとかワインを買ってベンチとか公園で一人で飲みます。

マネの絵の『草上の昼食』みたいな感じで写したつもりだったのですが、完全に年末にピクニックしてきましたみたいな写真になってしまいました。

そしてひとしきり海を見終わると帰りは中華街によります。


なんのために?中華料理を食べるためです。

えーっ、めっちゃ中華街じゃないですか!?なんすかそれ!?作家がどうとか言ってたのに?中華食うついでに海見ただけじゃん!!!はぁ?しかも路上で酒飲んでるしぃ!?店でもさらに飲んでるしぃ!?いいんですかぁ、先生がぁ!??


永遠のPTA気質な方々からはそういった批判も受けそうですが、ここは公立でも学校でもなくただの個人が経営する絵画教室なのでそういった意見に私は屈しません。


あと中華街に行くと世界チャンピオンの店とグランプリ一位の店があまりにたくさんあってこの世に一体『世界』は何個あるんだ?と思います。

で、中華街に行くと毎回中国人の勧誘(主に飲食店)の強さに心底ビビります。ちょっと前を通って看板に視線を移したのがバレようものなら、


『お兄さんお兄さん、どこ行くの????ご飯食べる????うちくる??安いよ?いまなら杏仁豆腐つくよ!!!』

って、すごい勢いで勧誘を受けます。いつも中華街を出ると体内に残っているのは提供された食事の量より勧誘量の方がはるかに多い気がします。


中華圏の人はすごいな、ということで思い出すのは昔予備校に勤めてたとき勤め先の駅周辺にはキャッチの中国人女性(タイ古式マッサージみたいなやつ)がたくさんいたのですが『お兄さん、マッサージドウ?マッサージ、キモチイイよ?女の子イッパイ、カワイイヨ?』とか言ってすぐに寄ってきます。しかも犯罪者をつかむ警察並みに強い力で腕とか掴んできます。

いや、キモチイィヨじゃねぇだろ(怒)あ、勝手に腕を組むなっ!!!生徒に見られたらどうすんだ!!?おい、仲間を呼ぶな!!!って言ってもだいたい100メートルくらいは余裕でついてきます。


完全にお店も違法な感じだし(よくニュースで摘発されてる)なによりあの客に対する強引な接客には唖然としますが、(歌舞伎町のお水系のキャッチのお兄さんだってあんなにしつこくはついてきません)良いか悪いかは別として、よくまぁ他国に来てあそこまで強引になれるなぁと、その部分には本当に感心します。


それでいつも思うのですが彼らはそれくらいしないと生きていけない、それでもこういったことをしながら生きていくことには何かしらのメリットがあるのでしょう。私も含め平和で住みやすい国ニッポンに慣れてしまった日本人はそんなことしなくても生きていける土壌があるのでそういうものに対して色々な見解がありますが、彼らは本当に生きることの必死さが違います。そういう必死さやエネルギーを見ていると、結構真面目に考えてしまいます。『営業で全く契約が取れません』とか言ってる若手社員の研修はすべて中華街の飲食店の勧誘とかを一緒にやらせたら良いのではないかと思ってしまいます。


毎年末に海を見て、中華街で強引な客引きに引っ張られながら中華料理を食べて、違法マッサージの勧誘を振り切って、日が変わる直前に疲労と食べ過ぎで帰宅する。そうするといつも思うのはなんだか自分の抱えている悩みや先々の困難は、清涼飲料水のペットボトルのフタみたいに些細なものなのだと思えてきます。

こうやってまた一年を終えるんだな、と思いながら残りのワインを家でもまた飲みはじめます。バファリンのやさしさ配合量並みに体内の血中アルコール濃度の比率がいつも高い気がします。


アトリエの皆様(読んでる人がいるのかわかりませんが)、本年も大変お世話になりました。おかげさまで今年もなんとかアトリエの業務をすべて無事終えることができました。本年最後のお仕事はとあるご自宅でのプライベートレッスンでした。


今年も緊急事態宣言の発令などによって人が全く来ない時期もあったのですが、そういう時はアトリエで一人で飲み会とかしててそれはそれでまた楽しかったです。


しかし今日まで多くの方々にご入会いただき、お席もほぼ満席状態になりました。おかげさまで来年もなんとか中華街で件の方々と一緒に飲食店やマッサージの勧誘などはしないで済みそうです。


私が独立して一人でアトリエを始めた時、先々のことをとある中国人の方(勧誘系の人ではなく普通に起業してる人です)に相談したらその人が言っていました。


『日本人は起業することに慎重すぎ。失敗する前から失敗の心配ばかりして、失敗以前に考えすぎて何も始められないことが最大の失敗。失敗したら屋台引けばイイじゃん?』と。


正直そんなに簡単に日本で勝手に屋台を弾いていいのかわからないのですが、そういう気持ちが大事なんだと思いました。


アトリエでは来年はなにかしらイベントとかもやれればと思っています。皆様も要望などあれば言っていただければと思います。(海見たいとかいう人がいたら『海見る会』とか全然やります。あと『桜を見る会』(正常盤)とか)


あと横浜の話はほかにもまだまだあったのですが(本当はそれを書きたかったのですが)、あまりにふざけた感じで話のトーンがこの文と違いすぎるのでまた年始の挨拶も兼ねて『横浜の話2・アナザストーリー』的な感じで上げたいと思います。あと『私の年賀状』とかも上げられたらあげる予定です。


残すところ数時間ですが、(今現在12月31日午後16時です)来年もどうぞよろしくお願い致します。

ATELIER HAYATO NAKAZAWA

代表講師 中澤 隼人

追記

今朝起きたら昨日呑んだワインボトルの蓋が緩んでいたらしく気に入っていたカバンの中にワインがこぼれていて泣きそうになりながら2時間くらいかけてワインのシミを落としました。